S&A: 機内食とイギリス料理

ガストロ・シアターかんそう

Curious Directive: Gastronomic


AR(拡張現実)と食事と舞台パフォーマンスが融合した新感覚のショー。




部屋の中央にある機内ギャレーで三人のシェフが忙しく機内食の準備をしているベイルート発・ヒースロー行きのエアバスA380。

イギリス料理に反映された各国の文化や影響、食事をともにすることの絆、食が呼び起こす数々の思い出を探るフライト。

「今この瞬間、37,000フィートの上空で、120万人が食事をしている」ということを印象づけられてからの本編スタートです。




乗客は全員ヘッドフォンをして円座に座り、手元にあるモニター画面に飛行機の貨物搬入の様子やシェフの手元などが映ります。

空港の荷物チェックに使われるベルトコンベイヤーに乗り、コンタクトレンズ液や日焼け止めのボトルが入ったトレイに混じって運ばれてくる5コースのテイスティングメニューは全て一口サイズ。

「ナイフとフォークで食事をするのは通訳を通して抱き合うようなものだから」、どのコースも手づかみで食べるスタイル。



■ エアラインから全てのコースにイギリス風のひねりを入れることを要請されたヘッドシェフのノーラ。彼女が考案した料理のひとつひとつがネーミングも盛り付けも凝っていてお洒落で楽しい。岩に張り付いたフジツボを模したバターで食べるパン「Seven Seas」、ショットのように一口で飲み干すカレー「Brick Lane」、シャンパンとグレープフルーツの泡で積雲をかたどった食前酒「Take Off」、落ち葉を敷き詰めた透明なフォトフレームに乗ったグリンピースときのこの「Sherwood Forest」。


■ 中でもオレンジのヘリウム風船のついたヨークシャー生地のカップに根菜を盛り付けた「Sunday daydream」がとびきり可愛くて、食べ終わった後に全員で一斉に風船を天井に放ったのがすごく綺麗だった。



■ 話に集中していると、暗がりの中、稀に自分の頭上のランプが点灯してスポットライトになり、「42Bの男。免税で特大のチョコレートを購入して、退屈しのぎにアラビア語の原材料表示を読んでいる」「25Dの女性。涼しい顔をしているが義母と席が離れて内心夢見心地」とか紹介され、急にストーリーに引きずり込まれる。私は「カレーを見ると大惨事だった初デートの思い出が蘇る」と紹介されたので努めてしょっぱい顔を心掛けました。いきなり入国管理のスタッフに尋問された人はさらに機転を求められたと思う。


■ 時折差し込まれるバゲージハンドラーたちの暇潰しの会話が毎度かわいい。

「俺スシ駄目なんだよ…生のエビがグレーなのとか無理…」「エビはピンクだろ?」「お前さてはエビ調理したことないな!」とか。

かと思えば同じ男が「セビーチェはレモンの酸でエビをしめてあるんだぜ」と意外にも南米料理を知っていたりして、なるほど人と食べ物の関係というのは表面だけでは分からない。


■ 彼らが遊んでいた「その国の料理を三品言えたらディナーコース完了で勝ち」のゲーム、面白そうだったので今度渋滞にはまった車内とかでやってみたい。たぶん中央アジアあたりの国で詰む。


■ レバノンに舞台が移るたびにカフェの厨房でつまみ食いされる筒状のパイみたいなやつが美味しそうで帰ってから「レバノン 春巻き」で検索したけどイマイチ良く分かりません。ワラク・イナブってやつかな?


■ ショーの中心のストーリーは「イギリス料理への異文化の影響」と聞いて私がぼんやり想像したものよりはるかに胸に迫る物語だったので泣き虫な気分の日だったら泣いていたかもしれない。ノーラが弟の死の一報を受けて浜辺に落としたアイスクリームから着想を得たフィッシュ&チップスのアレンジ料理(食用ペーパーでコーン型に包んだ魚の切り身)、「End of Brighton Pier」は悲しい顔で食べた。ギャレーに当局から「その便に乗務しているシェフは2人のはずです、三人目の身分証明書の提示を」と内線が入ったときは緊張でちょっと食欲がなくなった…。


■ 最後のデザートだけが小さなスーツケースに入って流れてきたの、まさに旅の記憶という感じがしてとても良かったです。「それでは開けてください」と促されて取り出したケーキ「Bakewell Snow」、本来ぼってりしたアイシングがかかってパン屋のウィンドーに常温で置かれているイメージの素朴なお菓子だけどあんなにビタースウィートな気持ちになるベイクウェルタルトは知らない。ルカがイギリスに流れ着いてバス停で見上げた雪すら見えるような気がした。


■ ラストのセリフにあった「食事をともにすることは、地球上の殆どの文化で歓迎の意を表すのですから」に関して例外はないか考えてみたけどないかな…?うん、ないな。という結論に至りました。



お腹がいっぱいになる類のディナーショーではないけど、ちょっと変わった素敵なお芝居が見られておまけにおつまみもついてくると思えばものすごくお値打ちだし、とっても感動したので帰りにチラシをもらって劇団名をめちゃくちゃメモした。

(インスタで検索すると韓国語のハッシュタグがたくさんHITするので韓国公演もあるのかもしれないです)


Mayumi's Soliloquy

まゆみのソリロクィ

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