至高のハムレット

BBCシャーロックのモリアーティ役でお馴染みのAndrew Scott主演、Almeida Theatreでのハムレットに行ってきました。

その日は早朝から一日社外研修で割と体力を吸われていた私、今どき珍しいカットなしの完全版ハムレットということで、一緒に行った友人にあらかじめ「ごめんこれ寝るやつだわ…」と断っておいたのですが、インターバルを二回挟む三時間超えの長丁場の間一睡もしなかったばかりか、最後客電がついた瞬間、あうんの呼吸で「これが今まで見た中で最高のハムレットってことでいい?」「反論の余地なくイエス。」ということで合意しました。


シャーロックと言えば以前ベネディクト・カンバーバッチ版のハムレットにも行きましたが、あれはあれで後日お客の何人かが絶対「舞台とそっくり同じ色味の青いペンキをください!」ってホームセンターに走ったのではというくらい、特に美術とスペクタルの点で迫力のあるステージでしたが、ハムレットそのものの出来はちょっと勝負にならない感じでスコット版の圧勝。(もともとスコットがいかにもなハムレット役者の風貌なのでベネカンは最初から分が悪かったかも)


何がどう良かったか説明するのは難しいけれど、シェイクスピアと言うのは巧くやると一語一句全て現代語に聞こえるのです。(普通の演出だと言葉が難解で常に何となく半目になる)

そしてソリロクィになった瞬間、観客が…ぐう。と弛緩するのではなくてぴしりと緊張が走って背筋が伸びる。


セリフやト書きにない部分の細やかな描写でちゃんと気持ちが繋がるようになっているのも演出の妙だと思いました。

レアティーズが出立前にオフィーリアに説教するときの、うわーーー妙齢の兄妹間で貞操観念のアドバイスするとかマジ勘弁…っていうモジモジした仲よさげな雰囲気も、ポロニウスが若干初期の痴呆症状が出始めていて、誰も口に出さないながらもそれとなく宮廷の人間全員が感付いているという匂わせ方も、ギルデンスターン(今回の舞台では女性!)とハムレットは以前友人以上の仲で、ギルデンスターンの現在の恋人であるらしいローゼンクランツに対するハムレットの気まずい距離の取り方も、全部膝を打つ程ジャストな匙加減で物語に作用しています。

冒頭、亡霊が出現するのも警備員室の防犯カメラの隅っこだったり、ノルウェー王からの外交連絡がスカイプで入ったりと、現代設定への配慮も程よく効いていてよかった。

ラスト、登場人物たちの手を腕時計が渡りながらの一人ずつの退場が余韻を残す切ない幕切れでした。


ウェストエンドでの続演が決まったらしいので是非多くの人に観て欲しい公演。

Yermaの再演も決定したのでそちらも是非。







0コメント

  • 1000 / 1000