御代、恙なけれ

読書かんそう
【十二国記/小野不由美】


中国風の異世界を舞台にしたファンタジー小説シリーズ。

麒麟という神獣が天意に沿って王を選び、不老の王が統治を行う十二の王政国家の物語。

ずっと気になっていて、ロックダウンを期に全巻取り寄せ、夢中で既刊15冊を読了しました。
まだ心が十二国から帰って来なくてずっと感想ブログや考察サイト巡回してる。


以下、感想を箇条書き殴り。

【白銀1~4】

■進撃ファンでもあるので、「誰しも劇的に死ねるって訳でも無いらしいぜ。どんな最後だったのかも分かんねえよ」(ジャン)という、思い入れのあるキャラの虫ケラ戦死エンドの重みは分かっているつもりだけど、それにしても後半につれて突然のお別れの数よ。一瞬名前が出た後に即殉職の人も多くて虚しさがすごい。

■しかし敵の懐に自ら入ってからの、「麒麟の性質上出来ない」という固定概念こそがミスリードになっていた泰麒の捨て身の策、天才かyo!さすが胎果の黒麒麟は奇策も想像の斜め上を行くぜ!

籠城や忍耐の頭脳心理戦は大好物なので、常に歯ぎしりと動悸を抑えながらの緊張の読書でした。


【シリーズ全篇】


■とりあえず読み仮名を毎度ふってくれえええ!章が変わる度に登場人物の名前を忘れる!頭の中で名前を音読できないキャラには何となく愛着も湧きづらい!陽子と六太のファンが多いのは単純に名前が読める親近感も絶対一因…

■各巻のタイトルと内容の接点が分かりづらく、読んでる最中でさえ題名が思い出せないのはどうかと思う。もっとこう、
「ハリー・ポッターと蓬莱の女子高生」
「ハリー・ポッターと仲間外れの黒麒麟」
「ハリー・ポッターと瀬戸内の若大将」
「ハリー・ポッターとお転婆娘の珍道中」
「ハリー・ポッターと幽閉の巌窟王」
とかにした方が内容と直結して満足感が増す気がする。
(「ハリー・ポッターと魔性の子」だけシャレにならない雰囲気)←

■夏官長・冬官長以下、朝廷の役職をふんわりとしか理解できてない自分がもどかしい。私も皆と一緒になって「なんと彼奴が冢宰に就任!?」とか朝内人事に驚きたい。役職早見表プリーズ。

■というか設定資料集とかないの?せめて各国の首都と王宮と将軍・官吏たちを一覧にして。

■王の即位、ならびに人と獣の誕生の仕組みがこちらと十二国世界の最大の違いですが、血縁の概念なくして親子の絆とは。世襲も投票もない中で、導く者の資格とは。これを(当初の読者対象である)ラノベ層に問おうと思った作者すごいな?

■李斎が宗教・哲学におけるいわゆる「悪の問題」(全知全能で完全に善なる神が創造したはずの世界に痛みや苦しみが存在する矛盾)のドツボに嵌ってるけど、これをラノベ層に問おうと思っt(略

■あと女性に非力の不利と出産の負担がない世界では政治に性差別がないという、現代日本に不都合なメカニズム露呈しちゃったけど大丈夫?(懐達は慶国特有の国民感情だからいったん保留)

■同時に結婚イコール出産の構図がない世界では、男女双方が入籍に純粋なメリットのみを求められる斬新な婚姻制度の形が提案されちゃったけど大丈夫?

■ひとまず各国には信頼できる報道機関が必要ですよね…。中央の決定が噂話ではなく正確に庶民に伝わる宮内庁発表的な何か。

■十二国に領土拡大と外交の概念がないのは、平和なようでいて人間の想像の外。だから陽子の大使館構想は的確。

■主人公は王であり麒麟であり、同時に民であるから、物語の中で時に人でなく国と時代が動くという独特の高揚感がある。だけどこの世界で王はなるものではなく起つもの、玉座は座るものでなく背負うもの。拒否権はないくせに覚悟は要求されるという理不尽な強制サドンデスなわけで、私に言わせれば全ての王は登極した時点で偉い。

■なので本シリーズを政治家の必読課題図書に推したいです。国政に携わる者全員、「今自分の足元に麒麟(民意)はいるか?」を常に自問して欲しい。

■何より、まず天意を伺うために王が麒麟に跪き、それが成った瞬間麒麟が王に叩頭く逆転のカタルシスたるや。互いの命を人質に、共に国の運命を背負うこのバディシステムのエモさを語る語彙など存在しない。

■しかし天の選んだ王を据え、何百年栄えた大王朝をもってしても永遠はない。盛者必衰、諸行無常は常世でも真理であり、各巻末の史書に数行で記述される全ては文字通り歴史の一ページに過ぎない。

■そして優れたファンタジーやSFが必ずそうであるように、龍が出ようが妖魔がいようが、魔法が使えようが不老不死であろうが、安寧は決して無傷では手に入らないし幸せへの近道はない。だからこそ、懸命に生きる彼らの命の使い方に痺れる憧れる。なるほど十二国記を思春期に読んだ人たちが、人生のあらゆる折り目に名場面・名台詞の数々を指針としてしまうわけだなと思いました。

■少女層が陽子の葛藤を我が身に置き換えられるよう、出自や性別に関わらず玉座に就けるシステムが必要だったと思うのですが、王位を継ぎも奪いもしない王が主権を主張するには、行動と政策で自らの正解を示し続ける他ない。偉大さは習慣の集大成である、というところが結局一番の感動ポイントなのかもしれません。


■良作だとお勧め頂いたのでアニメも履修済みです。「風の万里」編ラスト、陽子が初勅を宣言してメインテーマが流れたところは、ええ、鳥肌が立ちました。OP曲も壮大で堪らんですね。NHKは何らかの権利を振りかざして大河ドラマにしてくれ。

■皆さん仰っているように、初読で一巻の地獄展開にめげそうな人は「ねずみまで待て」を合言葉に耐えてほしいし、「斗南の翼」は私も劇場版で見たいです。

■不人気の理由も理解した上で、短編集「丕緒の鳥」は個人的に名作だなあ。内政の乱れが行政や市井に及ぼす影響が端的に全て分かるし、苦境の中、架空の公務員たちの地道な努力がひたすらにかっこいい一冊。要するにプロジェクトXである、という感想を見かけましたが、「青条の蘭」では私もずっと脳内で地上の星がかかってました。柳国の法曹界の皆さんもがんばれ応援してる…!

■登場人物全員大好きなので、どのキャラが一番?どこ主従推し?と訊かれると困ってしまう。(千年栄えよ戴国!と思うくらいには泰麒がかわいい)(泰麒は読者全員の初孫)(帰国子女、じゃなかった胎果組は全員贔屓不可避)

うーん、王と麒麟、アイドル楽俊を除けば私は月渓とか好きですね。ある意味驍宗より阿選の近しいところ、同時に対極にいる人ではないかと思う。最後の矜持で苦渋の禅譲をした砥尚の英断も心に残る。でもやはり「善意でなくても」「己という領土」の陽子でしょうか。あの気付きを得るために、読者が最初に出会う王は彼女でなくてはならなかったと思います。



一気読みした自分は待ち時間ゼロでしたが、前作長編と最新刊の間に十八年あいているそうで、もしリアルタイムで追いかけてたらきっと発狂してた!(そして「麒麟、還る。」の新刊アナウンスを見た瞬間失神してた)

2019年10月の最新刊発売日には台風が直撃し、ファンはリアル蝕が来た!と震撼したとか。暴風雨の中、根性で店を開けた書店と気合で買いに行った読者、双方の武勇伝をたくさん読みました。私がラグビーの心配ばかりしていたあの日に、各地でそんなドラマが繰り広げられていたなんて。
新作短編集が今から楽しみです。

(一話先行プレゼントキャンペーンの件は知りませんでした地団駄)




↑私が白銀で一番混乱したところ(兵の構成、偽朝文官の指揮系統など)をめちゃくちゃ分かりやすく解説してくれるまとめ動画シリーズを発見したのでシェア。

陣営別に色分けされた図を見ると、阿選朝廷において泰麒がいかに孤立無援だったかが分かる( ᵕ̩̩ㅅᵕ̩̩ )

Mayumi's Soliloquy

まゆみのソリロクィ

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