Come from Away

シアターかんそう「Come from Away」


9.11、同時多発テロ勃発直後。

アメリカ領空は閉鎖され、米国へ向かっていた多くの飛行機は

カナダへ直ちに緊急着陸を命じられた。

ニューファンドランド島の小さな田舎町、ガンダーは

突然旅客機38機を迎える事になり、

7000人ものクルーと乗客の受け入れに

住民は町をあげて奔走するが…という

実話に基づいたカナダ産ミュージカルです。


まだオープンして間もないですが、私の行った回は超満席で

昨今珍しいレベルの満場&納得のスタンディングオベーションでした。


■ 総勢10人ほどのキャストが

島民・乗客・クルーの全てを持ち回りで演じているにも関わらず、

空港の人口密度が町のそれを上回ったがゆえの混雑とカオスが

ありありと伝わってきて途方に暮れました。

(乗客7000人に対して当時のガンダーの人口が10000人)

全島民が知り合いのような小さな町に、見ているそばから747が、777が、

ルフトハンサがBAがヴァージン機が降りてくる。

まだ携帯もろくに普及していない時代で

多くの人とは言葉も通じず、領空再開の目処は立たない。

「どうすんだこれ…」と呟いて思考停止するしかない。


■ ストーリーの主軸が、人情劇はもちろんなのですが、

受け入れ体制を整えるためのロジスティクス面に置かれていたのが良かった。

ベビーフードに医療品に生理用品、当事者以外は忘れがちな必需品というのはたくさんあるし、

公民館もスクールバスも解放して

冷蔵庫が足りなくなったらアイスホッケーのリンクで代用するなど、

機転で乗り切る場面は見ていてガッツポーズしました。

いつか日本で緊急災害時に各国の人をお世話する局面になったら

色々参考になりそうな部分もあったので、

各種機関がメモを取ってくれていたらいい。

例えばクライシス時には祈りを必要とする人がいて、

祈りの場所を確保するのは衣食住と同じくらい不可欠であり、

同時に食べ物にも宗教的配慮が必要。ということや、

足留めを食らってイライラが溜まる一方の被災者たちには

酒を飲んで踊って発散する機会というのもまた必須。という発想は、

日本人には自然に思いつき辛いのではないかと思う。

島民の中で一人、ひたすら動物福祉に尽くす人がいたのも大事なことだと思いました。

(一方で毎日数百人が使うトイレの掃除のボランティアを募ったら

最初誰も挙手しなかった時にはoh...ってなった)


■ 演出的にすごいなと思ったのは、9.11の実際のニュース映像や

管制官との通信音声を一度も使用せず、

機体を投影することもなく

歌と音楽、ステージ上のみで全てを描ききっている点。


■ 島民のおもてなしの精神が度々みんなの心を救うけど、

災害時の異常心理下で日々を送る中で

親切自体は奇跡を起こせず、テロはやっぱり起こったままで

死は覆らない。

でも島で出会えた人も、乗客同士芽生えた何かも確かにあって、

失ったものと得たものを、それぞれこれから折り合いをつけて生きていく。

という結論がドライと優しいの両方だった。


■ アメリカン航空初の女性パイロット(実在の方。

シャルル・ド・ゴールからのフライト中にダイバートされてガンダーに着陸)が

自身の航空キャリアを振り返って歌うソロ曲は、曲自体も素敵だったのですけど、

フェミニスト観点からもカッコよくてわあああ!って滾った。

女性客なら全員あの人と両手でハイタッチしたい衝動に駆られる。

劇場ロビーに観客が自分の出身地をピンで刺せる世界地図がありました。

(Come from AwayのAwayはどこですか?という問いかけ)

私はイギリス列島の方に刺しましたが、

見る限り日本からもたくさんの人が観にいらしてるようで良かった。

激しくお勧め。



Mayumi's Soliloquy

まゆみのソリロクィ

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