クモオトメ
読書かんそう
『蜘蛛女のキス』
ブエノスアイレスに行くというので思いつきで読んでみました。
後でアマゾンを見たら、「旅行用に"アルゼンチン"で検索して適当に選びました!」
という人が私の他にもちらほらいた。
70年代、アルゼンチンの監獄。
ゲリラ組織の政治犯・ヴァレンチンと
未成年淫行罪により収容中でトランスジェンダーのモリーナは同房になる。
獄中での悲惨な毎日から逃避するため、ヴァレンチンに夜な夜な
大好きな映画のあらすじをつぶさに語って聞かせるモリーナ。
生まれも思想も正反対の2人だったが、映画と現実の世界の間を共に行き来するうちに、
いつしか彼らの間には奇妙な情愛が生まれ…というあらすじ。
■ モリーナが語る5編の映画と2人の牢でのやりとり、
最後の警察報告書とで構成されている他、
■ 結論から言うとアルゼンチンはほぼ関係なかった!
「ああ、あのへん…」と思い浮かべたりしました。
■ 毎晩ホテルでちょこちょこ読んだのですが、
作中でもモリーナがちょっと映画の話を進めては
セーブポイントを設けてくれるので楽でした。
翌日も「どこまでいったっけ?」「〜が〜するところ」「そうそう、」
と前日のおさらいが入るので、寝落ちした読者に優しい作り…。
■ モリーナの語る映画たち、ジャンルもメロドラマ、ゴシックホラー、
ナチスのプロパガンダにゾンビ物と
バラエティに富んでいてどれもすごく面白そうだった。
あんな詳細に再現できるほど好きな映画はないなあ私には。
■ ヴァレンチンがお腹を下してベッドで粗相してしまい、
モリーナが甲斐甲斐しく下の世話をしてやる場面が結構何度もあって
人間こうやって尊厳が地に落ちたときに優しくしてくれた人を
ちょっと愛しちゃうの完全に不可抗力…って実感が湧く。
■ 外から届く差し入れの食べ物を慎ましく分け合う二人、
中でもグァバペーストというものに対するヴァレンチンの食いつきが凄かったので
地元のスーパーでちょっと目を光らせてみましたが見つけられませんでした。
イメージ検索で見る限り、羊羹のような質感で
チーズなどと一緒に食べる甘味のようですが、
うーん毎日楽しみにするほど美味しいのかな。
■ 身体は男性で性自認は女性のモリーナですが、
プンスカしたかと思えば、片思いの相手のウェイターの
サラダを作る手つきの素晴らしさをうっとり描写して
ただのサラダだからとりあえず落ち着け…と思いました。
ヴァレンチンひいちゃうよ。
■ 彼の一人称の女性言葉など、英訳では再現できないニュアンスがあるので
できればオリジナルのスペイン語で読むのがお勧め。
という意見を見かけましたが(そんな無茶な!)
考えてみれば日本語訳ならオネエ言葉でそのへんは楽々クリアですね。
言われてみれば英訳はところどころ不自然なところがありました。
(あるときモリーナの主語が急にthis womanになって、え、which woman?
って思った2秒後にはヴァレンチンがズバリ
え、which woman?って言ってくれたので即解決したけど)
■ 私は途中から精神的にモリーナの恋路を応援し隊に入隊してしまったので
後半の展開は辛かったです…。
実はモリーナは恩赦と引き換えにヴァレンチンを懐柔し
組織の情報を入手する裏取引に応じているのですが、
好きになっちゃったらその任務は、うん、もう無理だよね…っていうのは当然だし、
ヴァレンチンに度々「君が気持ち悪くなければ」って予防線張る
恋愛的自己肯定感の低さも泣ける。
それはそうだろうなあと思います。
「哀しみってどうしていつも喉につまるのかしら」っていうモリーナのセリフが好き。
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